2020 SAKAI,Miho

氏 名 ( 酒井 美穂 )

論文題名

 

新規スプリットフロー技術開発に基づく超臨界流体抽出-超臨界流体クロマトグラフィーシステム基盤技術の構築

 

論文内容の要旨

第一章 緒論

超臨界流体とは物質の臨界点を超えた温度,圧力下にある物質のことを指し,その粘度は気体様に低く,拡散係数は気体と液体の中間をとる.また密度は,気体に比べてはるかに大きく,液体並みである.このような超臨界流体の特徴は,液体に匹敵する溶解力でより迅速な処理を可能とする.中でも超臨界流体二酸化炭素は,室温付近の臨界温度であること,安価で低毒性であることから最も利用されている.超臨界流体二酸化炭素の溶解性はn-ヘキサンと同程度とされるが,モディファイアと呼ばれる極性溶媒との混和が可能であり,溶出力を大きく変化させることができる.このような特性を持つ超臨界流体二酸化炭素は成分分析プロセスにおける抽出(Supercritical fluid extraction: SFE)やクロマトグラフィー(Supercritical fluid chromatography: SFC)に広く利用されている.一方,分析プロセスの効率化と精度向上を目的としたSFESFCのオンライン接続は1980年代から検討されてきたが,SFEからSFCに移送される抽出物量の調節ができないことに起因したピーク形状の悪化や装置汚染により実用化に至っていない.そこで本博士研究では,SFEからの抽出物量を調節してSFCに導入する新規スプリットフロー技術を開発し,それに基づいてSFESFCシステムの基盤技術を構築することを目的とした.

第二章 SFE-SFCシステムの実用化に資する新規スプリットフロー技術の開発

一般に超臨界流体のスプリットは,分岐した流路の配管内径や長さを変更することにより調節される.しかし,配管の仕様は限られるため,連続したスプリット比の調節は困難であった.そこで,SFEの下流で分岐した2つの流路(一方は廃棄側,他方はSFCカラム側)に,電気的に圧力を調節する背圧調整器(Back pressure regulator: BPR)を設置し,BPR間に圧力差(差圧, 廃棄側>カラム側)を設けることでスプリット比を調節する新規スプリットフロー技術を考案した.幅広い極性の農薬成分を用いた検証の結果,スプリット比は差圧に比例して連続的に制御されること,またその挙動は成分の極性に依存しないことが示された.次いで本結果から導出された関係式と検証から,移動相条件,カラム条件もスプリット比に影響を与える要素であることを明らかにした.加えて,カラムのすぐ後ろの流路にポンプから溶媒を追加することにより,スプリット比を微調節できることも明らかにした.

第三章 新規スプリットフロー技術に基づくSFE-SFCシステムの開発

開発した新規スプリットフロー技術を組み込んだSFE-SFC/MSを用いて,SFEからSFCカラムに導入される抽出物量を減少させた.導入量の減少に伴い,試験に用いた農薬成分のうち,特に分析カラムで保持が弱い成分のピーク形状や保持が改善した.この結果より分析カラムで保持が弱い成分は,抽出物導入量に影響を受けることが示唆された.そこでスプリットに加え,分析カラムの前に分析カラムと異なる分離特性を持つカラムを直列に接続することで,分析カラムで保持が弱い成分のみの選択的保持を達成した.またオンラインシステムは,全ての工程が接続されているため,正確な測定のために重要な指標である抽出効率の算出は困難であるが,インジェクターから注入した標準のバンド幅を物理的に拡張して導入する標準導入システムの開発によって,抽出効率算出可能なシステムとした.最後に,構築したシステムを食品中残留農薬分析に適用し実用性を評価した.その結果,従来法より高いサンプルスループットで,要求感度を確保した,幅広い極性の農薬成分および光分解性農薬成分の測定を達成した.

第四章 総括

本博士研究では,SFEからSFCに導入する抽出物量を制御するための新規スプリットフロー技術を開発し,SFE-SFCシステムの実用化のための基盤技術を構築した.まず,考案した新規スプリットフロー技術の概念を実証し,制御要因を明らかにした.ついで,新規スプリットフロー技術を組み込んだSFE-SFCシステムを用いて,スプリットやカラムの追加接続の分離への効果を検証し,抽出効率算出のための標準導入システムを開発した.構築した技術は,SFE-SFCシステムの実用化のための確実な一歩であり,今後は,高精度ハイスループットスクリーニングが重要な食品中残留農薬分析への本システムの適用が期待される.

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