2016 石橋愛実

超臨界流体クロマトグラフィー適用極性範囲拡大に基づく新規残留農薬一斉分析法の構築

論文内容の要旨


第一章 緒論

食の安全と食品価値の保全のために食品中に残留する農薬をはじめ動物用医薬等全ての化学物質の残留基準が制定されモニタリング対象となっている.世界中でこれまでに流通,使用された全ての農薬化合物の数は1000種を超え,多種多様な化学特性を有し,幅広い極性化合物から成る全ての農薬を一斉に分離するただ一つの手法の開発には未だ至っていない.本研究はこれを解決する手法として超臨界流体クロマトグラフィー (SFC) を提案する.移動相である超臨界二酸化炭素 (SCCO2) は気体様の拡散性と液体様の密度を持ち,メタノールなどの極性溶媒を添加することでSFCの移動相は大幅な極性可変性を持つ.本研究では,幅広い極性の指標化合物を用いてSFCにおける固定相毎に異なる溶出挙動を解析し,残留農薬分析において有効なSFCの分離特性の探索とそれを用いた新規残留農薬一斉分析法の開発を目指した.

第二章 残留農薬一斉分析におけるSFCの適用と分離挙動の解析

分子量110.0~1008.3,logP=4.6~7.05の17種の農薬を指標化合物として用い,SFCによる広範囲極性農薬分析に有用な分析条件の検討を行った.種々の固定相と移動相組成の変動を検討した結果,疎水性相互作用および親水性相互作用がいずれも作用する極性基内包型逆相と,固定相への親和性を調節し,移動相への親和性を向上させる移動相組成を見出した.CO2リッチの移動相初期条件では極性化合物は移動相への親和性がなく固定相へ保持され,メタノール組成の大幅な上昇によって溶出したと考えられた.また,メタノールに添加したギ酸アンモニウム由来のアンモニウムイオンが塩基性化合物の固定相からの速やかな解離に作用したとみられ,幅広い極性化合物の分離を可能とした.この分離挙動はSFC特有であり,これまでSFCが適用可能だとされてきた極性範囲は移動相極性に誘引される固定相極性の大幅な可変性により親水性領域へ進展され,残留農薬一斉分析の実現に向けて大きく資する結果が得られた.

第三章 残留農薬一斉分析システム構築に向けたSFC適用技術の検証

当該分析システムの拡張性を検証することを目的に,114の分類に属するこれまでGC及びLCの併用により分析されてきた506の農薬および農薬代謝体を分析した.この結果,445化合物の分離が可能であった.さらに実サンプルとしてホウレン草粗抽出液に標準品を添加した添加回収試験では夾雑物存在条件下においても10 µg/Lの低濃度で377化合物が検出可能であったことから,本システムが農作物のスクリーニング分析に特に有効なシステムである事が示された.この後単一標準品を購入できなかった4種を除き502化合物が質量分析 (MS) もしくはフォトダイオードアレイ検出器 (PDA) を検出器として接続したセミミクロンの固定相充填カラムを使用したSFCシステムの利用によって分析可能であることを明らかとし,SFCの拡張性が示された.

第四章 総括

本研究では従来GCおよびLCの複数のシステムの併用によって実施されてきた幅広い物理化学的特性を有する農薬の残留農薬分析がただ一つの移動相と固定相を用いたSFCによって実現可能であることを示し,SFCによる網羅的な残留農薬分析法の可能性を検証した.幅広い極性化合物の一斉分析には極性化合物および疎水性化合物と相互作用する固定相が有効であり,本研究では極性基内包型逆相カラムが様々な多様性に富む農薬の保持に有効であることを見出した.この特性を利用した新規残留農薬分析法はどのような化合物が残留しているかが不明な農作物などの食品のスクリーニング分析に有効な選択性高い手法であると考えられる.農薬というバリエーションに富んだ化学構造を有する化合物群を同一条件のSFCで測定することで,様々な化学構造に起因したSFCにおける分離特性に関する知見が集積され,残留農薬分析における有効な分析手法の前進に資するのみではなく,様々な生理学的分野に有効な分離手法としてSFCの可能性を提言する成果であると考える.


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