2011 林俊介

博士論文要旨
ゼブラフィッシュ初期発生胚のメタボローム解析

大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻 生物資源工学領域 福崎研究室
 林 俊介

第1章 緒論
生体サンプル中の代謝物を網羅的に解析するメタボローム解析はオーム科学研究の中でも新しい分野である.代謝物はゲノム情報の実行の結果であり,最も表現型に近く,情報量が多いことから高解像の表現型とみなすことができる.したがって代謝の総合的理解だけでなく,病態診断,薬物応答,品質管理など様々な分野で適用が検討されている.一方,ゼブラフィッシュは発生のモデル生物であり,発生胚が透明で観察しやすいなどの理由により実験動物としても汎用されており,近年では全ゲノム配列が解明され,遺伝学的にヒトとの共通点が多いことから疾患モデルや薬物スクリーニングにも利用されている.しかし,その評価手法は形態観察が支配的であり,一連の形態変化過程において変動しているはずのメタボローム情報は皆無である.そこで,本研究では,ゼブラフィッシュの発生段階を,メタボロミクス手法により予測することを試み,さらに,ゼブラフィッシュの発生胚中の代謝物のプロファイリングを行い,その代謝変動を解析することとした.

第2章 メタボロームを説明変数としたゼブラフィッシュ胚の発生段階予測
ゼブラフィッシュの発生段階には,形態観察に基づいて発生時期が規定されており,変異体のスクリーニングや薬物の暴露試験における表現型の変化も通常胚との差として捉えられている.そこでまず,メタボローム解析によりゼブラフィッシュの通常発生胚の発生段階予測モデルを構築することとした.受精後2時間(hours post fertilization, hpf)から12 hpfまでの21ポイントにおいて発生胚をサンプリングし,UPLC/TOF-MS(ultra performance liquid chromatography/time-of-flight mass spectrometry)分析を行った.ピークインデックスを独立変数に,その相対強度を従属変数としたデータマトリックスを説明変数とし,受精後時間を応答変数として,重回帰分析の1つであるPLS回帰分析(Projections to Latent Structures)により発生段階予測モデルを構築した.モデルの直線性を表すR2値は0.99であり,クロスバリデーションによる検証でも十分な予測精度を確認することができた.そこで,予測モデルの応用として,発生速度が変化することが知られている発生温度を取り上げた.異なる温度条件下で生育させることにより発生速度を変化させた胚について,構築した発生段階予測モデルに適用した結果,異なる生育条件によるメタボロームの変化を数値により表現することができた.
 

第3章 代謝物プロファイリングによるゼブラフィッシュ胚の代謝変動解析
ゼブラフィッシュ発生胚中の代謝物変動を解析するために,代謝物同定に実績のあるGC(gas chromatography)/TOF-MS分析を行った.1 hpfから48 hpfまで24ポイントの発生段階において発生胚をサンプリングし,分析データよりin-houseライブラリーを用いて63化合物を同定した.これらの代謝物を独立変数,その強度を従属変数としたデータマトリクスを用いて,探索的アプローチである主成分分析(principal component analysis, PCA)を行い,代謝物全体の変動パターンを調べた.多くの代謝物は発生過程の進行とともに増加していたが,グアニン,ヒポキサンチン,アスパラギン酸,-アラニンは発生初期に顕著に減少していた.特徴的に減少した化合物は,発生初期に大量に必要な核酸の貯蔵に関与していることが示唆された.また,同定代謝物情報を用いた場合も発生段階予測モデルを構築することができた.
 
第4章 総括
第2章において,メタボロームを説明変数とした,胚発生という生命現象を数値化して表現することができる発生段階予測モデルを初めて構築した.さらに応用検討として異なる温度条件下で生育した発生速度の異なる胚発生をモデルに適用した.第3章ではゼブラフィッシュ発生胚の水溶性代謝物の一斉分析を行い,その代謝変動を初めて解析した.
本結果はゼブラフィッシュの生命現象の評価や解明にメタボローム解析が寄与できることを示すものである.

発表論文リスト
本学位論文に関与する論文
1) Hayashi S, Akiyama S, Tamaru Y, Takeda Y, Fujiwara T, Inoue K, Kobayashi A, Maegawa S, Fukusaki E. A novel application of metabolomics in vertebrate development. Biochem Biophys Res Commun., 2009, 386, 268-272
2) Hayashi S, Yoshida M, Fujiwara T, Maegawa S, Fukusaki E. Single-embryo metabolomics and systematic prediction of developmental stage in zebrafish. Z naturforsch C, accepted
その他の論文
3) Hayashi S., Yagi K, Ishikawa T, Kawasaki M, Asai T, Picone J, Turnbull C, Hiratake J, Sakata K, Takada M, Ogawa K, Watanabe N. Tetrahedron, 2004, 60, 7005-7013
4) Hasunuma T, Takeno S, Hayashi S, Sendai M, Bamba T, Yoshimura S, Tomizawa K, Fukusaki E, Miyake C. J Biosci Bioeng, 2008, 105, 518-526

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