2009 金鐘賢

植物性乳酸菌由来デンプン分解酵素に関する研究

生物資源工学領域 金 鍾賢

デンプンは植物の種子、根、根茎、果実などに含まれる貯蔵多糖類である。グルコースがα-1,4-グルコシド結合で連結した直鎖状高分子のアミロースと、それにα-1,6-グルコシド結合をも含む分岐鎖高分子アミロペクチンとからなるグルコースホモポリマーである。デンプン分解酵素を大きく分けると、アミロースやアミロペクチンのα-1,4-グルコシド結合を主として加水分解するα-アミラーゼやβ-アミラーゼと、α-1,4-とα-1,6-グルコシド結合を非還元性末端から加水分解するグルコアミラーゼ、分岐鎖のα-1,6-グルコシド結合を加水分解するイソアミラーゼやプルラナーゼに大別される。これ以外にも、α-1,4-及びα-1,6-グルコシド結合の両方を加水分解するアミロプルラナーゼやネオプルラナーゼが報告されている。デンプン分解酵素は様々な生物から発見されているが、乳酸菌ではここ十数年前に初めてデンプン分解酵素が発見され、現在は多くの乳酸菌で報告されている。しかし、大多数がα-アミラーゼであり、他のデンプン分解酵素に関する報告は少なく、遺伝子や酵素についての詳しく研究はなされていない。魚とお米由来の発酵食品Burong Bangusから分離されたLactobacillus plantarum L137の持つデンプン分解活性は、以前の研究でα-1,4-とα-1,6-glucosidic結合の両方を加水分解するアミロプルラナーゼタイプのデンプン分解活性を保有することが最初に示唆された。しかし、その遺伝子情報や明確な酵素の諸性質については明らかになっていない。また、Lactobacillus plantarum L137はBurong Bangus発酵後期過程で優勢種として生存し、デンプン分解活性の出現と相関する内在性プラスミドpLTK13上にはプルラナーゼと相同性のあるOpen Reading Frame(ORF)が存在し、その他の糖質代謝関連遺伝子は見出されなかった。 以上を踏まえて、デンプン分解活性の本体を明らかにすると共に、その活性とL. plantarum L137の生存性との関連性を調べることを目的として、まず、注目したデンプン分解酵素遺伝子を高発現タンパク質を精製し、その遺伝子産物の酵素学的特徴について、以下のように研究を進めた。

Ⅰ植物性乳酸菌L. plantarum L137由来アミロプルラナーゼ遺伝子の発現と遺伝子産物の解析
 L. plantarum L137のデンプン分解活性の本体と予想されたorf2をクローニングし、塩基配列を確認後、L. plantarum L137よりpLTK13を脱落させたデンプン分解活性欠失株NCL21が同活性を回復することを確認した。このorf2由来の発現産物の精製画分はSDS-PAGE上、推定分子量215,625を中心とするブロードバンドを示し、デンプン分解活性もそのバンド範囲に一致して観察された。しかし、この精製画分のアミノ酸組成およびN末端アミノ酸配列結果はorf2から推定される結果と良く一致したことから、この画分はorf2由来の1種類の精製酵素であると結論し、このデンプン分解酵素の酵素学的性質を調べた。基質特異性、pH依存性、温度依存性などを調べた結果、以前に得られていたL. plantarum L137が有するデンプン分解活性の特性を確認し、さらに組換え遺伝子産物の酵素学的特徴としては、デンプンからの加水分解産物は主にマルトトリオースとマルトテトラオースで、プルランからはマルトトリオースだけを産生することを明らかにした。これらの結果、クローニングした遺伝子はデンプン分解酵素に属するアミロプルラナーゼをコードすることが明らかになり、これをapuAと命名した。

Ⅱ.L. plantarum L137由来アミロプルラナーゼのC末端欠損変異酵素の特性
apuA遺伝子産物はN末端にD(A/T)ANSTの6アミノ酸で構成された39個の繰返し配列と、C末端に50個のQPT繰返し配列の特徴的な配列を持っている。N末端の繰返しアミノ酸配列には全く相同性を見出せなかったが、C末端の繰返しアミノ酸配列には糖質に係るタンパク質との相同性が見いだされたので、特異的な繰返し配列の酵素における機能を調べるため、野性型ApuAとC末端繰返しアミノ酸配列を除去した変異型ApuAΔを酵素学的安定性(pH、温度)、化合物に対しての影響、基質特異性や速度定数、基質の分解パターンについて比較した。酵素生産性と比活性ではApuA よりApuAΔの方がわずかに高い結果を得た。酵素学的安定性においては両酵素間に差は見られなかった。基質特異性では大きな差は見られなかったが、触媒効率ではApuAΔがプルランに対してよい結果を示した。これらの結果から、C末端の繰返し配列を除去しても一定の活性を保持していることから、大きな構造の変化は見られないと考えられる。加水分解産物の解析ではデンプンにおいては変化は見られなかったが、アミロースとプルランにおいては変異型のApuAΔの方がApuAより速く基質を分解し、分解産物としてより多くの低分子のオリゴ糖を生産した。従って、C末端の繰返しアミノ酸配列をもつことによってα-1,6-グルコシド結合分解能が抑えられ、α-1,4-グルコシド結合のアミロース含量が多いデンプンに適したアミロプルラナーゼになったと考えられる。

以上のように、本研究では植物性乳酸菌由来のデンプン分解酵素遺伝子のクローニング、遺伝子産物の酵素学的性質の解析により、本デンプン分解酵素をアミロプルラナーゼと同定した。乳酸菌からアミロプルラナーゼが分離されたことは珍しく、しかも、プラスミド上に存在することは今回の結果が初めてである。本研究のアミロプルラナーゼはモノマー酵素で1つの触媒部位でα-1,4-とα-1,6-グルコシド結合を分解するタイプである。本遺伝子はL137株が様々な菌種が共存する発酵食品の後期過程で分離されたことと、プラスミドのアノテーション解析結果からアミロプルラナーゼ遺伝子の両端に転移遺伝子が存在することを考えると、水平伝播でアミロプルラナーゼ遺伝子を獲得してきたと考えられる。デンプンの加水分解産物は主にマルトトリオースとマルトテトラオースを産生する特徴を持っていることを明らかにした。野性型とC末端の変異型を比べた結果では、繰返し配列は酵素の安定性より基質の分解能に関わることを明らかにした。このようにL137はデンプンを分解し、他の菌株ではあまり利用できないと思われるオリゴ糖を産生し、それを栄養源として利用し、発酵食品の中での生存に有利に働いたと考えられる。C末端のアミノ酸繰返し配列はα-1,6-グルコシド結合分解能を抑え、α-1,4-グルコシド結合のアミロース含量が多いインディカ米に適したアミロプルラナーゼになったと考えられる。

発表論文
1. Kim, J. H., Sunako, M., Ono, H., Murooka, Y., Fukusaki, E., and Yamashita, M.: Characterization of gene encoding amylopullulanase from plant-originated lactic acid bacterium, Lactobacillus plantarum L137. J. Biosci. Bioeng., 106(5), 449-459 (2008). 
2. Kim, J. H., Sunako, M., Ono, H., Murooka, Y., Fukusaki, E., and Yamashita, M.: Characterization of the C-terminal Truncated Form of Amylopullulanase from Lactobacillus plantarum L137. J. Biosci. Bioeng., 107(2), In press (2008).
その他の論文
1. Kim, J. H., Kim, B. W., Yoon, K. H., and Nam, S. W.: Expression of Bacillus sp. β-xylosidase gene (xylB) in Saccharomyces cerevisiae. Biotechnology Letters, 22, 1025-1029 (2000).
2. Kim, J. H., Kim, J. H., Kim, S. C., and Nam, S. W.: Constitutive Overexpression of the Endoxylanase Gene in Bacillus subtilis. J. Microbiol. Biotechnol., 10(4), 551-553 (2000). 
3. Nam, S. W., Park, H. Y., Kim, J. H., Seo, J. H., Han, N. S., and Kim, B. W.: Expression of Bacillus macerans cyclodextrin glucanotransferase gene in Saccharomyces cerevisiae. Biotechnology Letters, 23, 727-730 (2001).
4. 山下光雄、金鍾賢、筒井麻衣子、秋、小埜和久、室岡義勝:乳酸菌L137株におけるアレルゲン遺伝子の発現. 生物工学, 82(9), 434-435 (2004).
5. Kim, M. J., Kim, S. H., Lee, J. H., Seo, J. H., Lee, J. H., Kim, J. H., Kim, Y. H., and Nam, S. W.: High-Level Secretory Expression of Human Procarboxypeptidase B by Fed-Batch Cultivation of Pichia pastoris and its Partial Characterization. J. Microbiol. Biotechnol. 18(10), In press. (2008). 

Comments