2013 藤枝裕介

論 文 内 容 の 要 旨

〔 題 名 〕

In vivo病態モデル動物における主要評価項目とメタボライトの相関に関する研究

学位申請者 藤枝 裕介

本論文では、in vivo病態モデル動物にメタボロミクスを適用し、新規創薬ターゲットの取得や臨床で応用可能なバイオマーカー探索におけるメタボロミクスの可能性を検討した。

第一章では緒論として、現状におけるin vivo病態モデル動物を用いた評価の問題点を提起し、メタボロミクスに着目した経緯を紹介した。また、in vivo病態モデル動物にメタボロミクスを適用し、新規創薬ターゲットの取得やバイオマーカー探索におけるメタボロミクスの可能性を検討するといった本研究の目的を示し、その方策として、in vivo病態モデル動物における主要評価項目とメタボライトの相関を利用する手法を提示した。

第二章では、炎症収束のメカニズム解明及び炎症収束に影響する新規な創薬ターゲット発見を目的に、メタボロミクスの技術を代表的な自発的炎症収束モデルであるマウスザイモサン誘発腹膜炎モデルに適用した。腹膜炎誘発後の腹腔内洗浄液(PWF)及び血漿中において、メタボライト組成が経時的に大きく変動することが判明し、炎症及びその収束過程を良く反映していた。PWF中の炎症抑制性因子インターロイキン-10(IL-10)を主要評価項目として設定し、IL-10濃度と高い相関を示すメタボライトを探索した。その結果、ケトン体である3-ヒドロキシ酪酸(3-HB)やその類似物質が高い相関を示し、炎症の収束前にその濃度が上昇することを確認した。3-HB濃度の上昇は、脂肪酸β酸化の亢進を示している。脂肪酸β酸化及び3-HB産生の亢進は、炎症の収束プロセスに重要な役割を示す可能性があり、炎症性疾患治療薬の新規創薬ターゲットとなる可能性が考えられる。

第三章では脊髄損傷の行動学的評価に用いることのできるバイオマーカーを探索する目的で、メタボロミクスの技術をラット脊髄損傷モデルに適用した。ラットに脊髄損傷を与え、脊髄組織中のメタボライトを経時的に測定した結果、脊髄中のメタボライト組成が脊髄損傷後に大きく変化することを確認した。複数のメタボライトの脊髄中濃度が、本実験系の標準的な神経行動学的評価項目(主要評価項目)であるBasso-Beattie-Bresnahan (BBB) スコアと極めて高い相関を示した。特に脊髄中のNAA濃度は、ヒトにおいてその相対濃度が非侵襲的に測定できることから、脊髄損傷後の傷害の重症度や神経機能の回復をより正確に診断できる有用なバイオマーカーとなる可能性があり、臨床での応用が期待される。

第四章では、以上の研究成果と意義をまとめ、今後の課題と展望について記述した。