2016 山田貴之
クロマトグラフィー保持時間予測に基づく脂質メタボローム解析技術の開発
論文内容の要旨
本論文では脂質メタボローム解析におけるクロマトグラフィー保持時間を予測する手法を構築し、質量分析で検出される脂質分子種を包括的に同定することが可能な脂質メタボローム解析技術を開発した。
第一章では、緒論として本研究を実施するに至った背景を記述した。初めに、これまでの脂質代謝研究を紹介するとともに脂質メタボローム解析の意義と現状について述べた。以上を受けて本研究の目的を、質量分析で検出される脂質分子種を包括的に同定することが可能な脂質メタボローム解析技術の開発とした。
第二章では、クロマトグラフィーにおける脂質分子種の保持時間を正確に予測する手法を構築した。脂質分子を脂質クラス特異的な部分構造 (主に極性官能基) と非極性の脂肪酸側鎖部分に分け、それぞれの部分構造の「見かけの保持時間」を定義し、それらの和として脂質分子そのものの保持時間を算出する手法の考案ならびに適用を試みた。まず、脂肪酸が結合した脂質分子種の保持時間と当該分子種に結合する脂肪酸の遊離体の保持時間の相関を解析した結果、脂肪酸が結合した脂質分子種の保持時間は、遊離脂肪酸の保持時間の一次式で近似できることが明らかとなった。以上の結果をもとに保持時間予測式を立てた。次に、当該手法の保持時間予測精度を、標準品を用いて検証した結果、脂質クラスやクロマトグラフィー条件に依存せず高精度の予測が可能であることが示された。
第三章では、構築した保持時間予測手法が質量分析で判別できない分子種の判別へ適用可能かを検証した。まず、保持時間の予測値をもとに算出される分離度を指標として分離条件を検討した結果、超臨界流体クロマトグラフィーで極性基内包型オクタデシルシリルカラムを用いた場合に質量分析で判別できない脂質分子種を分離可能であることが示された。次に、当該分離系に対してデータ解析条件を最適化し、分離できたとみなされる2ピークを判別可能か検証した結果、分離度1.2以上の2ピークはin silicoライブラリーとの類似性評価に基づき算出されるデータ解析スコアを指標として判別することが可能であることが示された。最後に、ラット血しょうを対象とした脂質メタボローム解析を実施した結果、質量分析で判別できない分子種を、保持時間を指標として判別可能であることが示された。
第四章では、以上の研究成果とその重要性についてまとめ、残された課題をもとに今後の展望について記述した。