2015 角田省二

博士論文題目 血中揮発性成分マルチマーカープロファイリングシステムの開発

論文の要旨

本論文では高感度かつ網羅的な血中揮発性成分プロファイリングシステムの開発に取り組んだ。

第一章では緒論として、これまでの揮発性成分解析、その分析手法や問題点について記述した。血液には様々な揮発性成分が存在すると考えられるが、これまで特定の成分しか注目されていなかった。また、幅広い揮発性成分を分析できるシステムが必要であったが、既存法では揮発性成分ごとに異なる回収率や検出感度の問題があった。そこで本研究では、血中揮発性成分マルチマーカープロファイリングのための高感度かつ網羅的に解析可能なシステムの開発を試みた。

第二章では、in vitro 酸化処理脂質標準品から生成される揮発性成分プロファイリングについて報告した。血液に含

まれる揮発性成分の生成源の一つに酸化脂質が注目されていた。しかし、血液中には多種多様な脂質が存在するため、どのような揮発性成分が生成されるのか不明であった。そこで in vitro 酸化処理脂質標準品を調製し、酸化脂質から生成される様々な揮発性成分の分析を行い、その情報をもとに血液試料分析を行った。分析の結果、in vitro 酸化処理脂質標準品から43化合物を検出し、アルデヒド類のみならずアルコール類などの揮発性成分が含まれていた。そしてマウス血しょうに適用した結果、血液中にも様々な揮発性成分が存在することが明らかとなった。各種酸化処理脂質や血液の解析により揮発性成分情報が拡充され、得られた揮発性成分情報は血中揮発性成分解析の際に必要となる揮発性成分ライブラリーとして期待できた。

第三章では、ダイナミックヘッドスペース ガスクロマトグラフィー/質量分析を用いた血中揮発性成分プロファイリング技術の開発について報告した。ダイナミックヘッドスペース法は気相成分のパージにより揮発性成分を抽出する動的な手法であるが、抽出担体の破過容量やカラム導入におけるサンプルロスの課題があり、揮発性成分の多成分分析に基づく解析が困難だった。そこで本章では、抽出担体の検討や高圧注入法に着目した。その結果、高圧注入条件を360 kPa、2分間に設定し、抽出担体をTenax GRを用いることで、既存法では分析が困難だった成分を含むすべての揮発性成分を検出可能となった。バリデーションテストの結果、検出下限値はすべてngオーダーとなり、マウス血しょうへの添加回収試験では平均RSD値は10%以下と良好な結果が得られた。構築したシステムを in vitro 酸化処理マウス血しょうに適用した結果、低濃度酸化剤処理における揮発性成分の変動を含む3種類のプロファイルを明らかにすることができた。また急性炎症および慢性炎症モデルのマウス血しょうの揮発性成分プロファイリングにより、アルコール類やアルデヒド類が慢性炎症に比べて急性炎症で増加する傾向が明らかになり、血中揮発性成分マルチマーカープロファイリングが可能であることを示した。

第四章では、以上の研究成果と意義をまとめ、今後の展望について記述した。