2014 中山泰宗
タイトル 非定常安定同位体希釈に基づく代謝ターンオーバー解析法の開発
論文内容の要旨
本論文では代謝ターンオーバー解析におけるデータ解析方法の開発を行い,解析に“完璧な代謝マップ”を必須としない代謝動態推定法を提案した.これにより既存の知見と異なる代謝のヒントを得る方法や,代謝マップのモデリングに依存しない摂動経路探索の方法を開発した.第1章では緒論として,研究を行うに当たっての経緯を記述した.初めに,これまでの代謝研究を紹介するとともに代謝動態解析の重要性と現状について述べた.その中で本研究の目的を.解析に“完璧な代謝マップ”を必須としない代謝動態推定法の開発とした.第2章では,ターゲット分析における代謝ターンオーバー解析法の開発と代謝距離推定への応用について報告した.代謝ターンオーバーを主成分分析に供することで,“完璧な代謝マップ”を必要とせずに代謝動態の議論を行う方法を提案した.代謝ターンオーバーの類似度が代謝距離(代謝物間の反応段階数)を反映するというアイデアを提起し.代謝ターンオーバーの主成分スコアプロットからの代謝物間の相対的代謝距離推定を試みた.出芽酵母の中央代謝(14代謝物,77アイソトポマー)の代謝ターンオーバーをキャピラリー電気泳動/質量分析(CE/MS)を用いて観測し,主成分分析を用いて解析した.結果として,通気下でのフマル酸レダクターゼ(フマル酸をコハク酸へ変換する酵素)の活動のなどの知見が得られた.第3章では,ノンターゲット分析における代謝ターンオーバー解析法の開発と摂動代謝経路推定への応用について報告した.本章では代謝ターンオーバーをノンターゲット代謝プロファイリングと統合することで,代謝マップのモデリングに依存せずに摂動代謝経路の探索を行う方法を提案した.さらに,得られたマーカーピークが未知の際に,効率よく化合物推定を行う方法も議論した.ガスクロマトグラフィー/エレクトロンインパクト/質量分析(GC/EI/MS)を用い,アミノ酸カクテル(ロイシン,リシン,ヒスチジン,ウラシル)が出芽に与える影響を解析し,本方法の実用性を検証した.GC/EI/MS分析の結果,35個の未同定ピークを含む69代謝物の代謝ターンオーバーが得られた.多変量解析の結果,アミノ酸カクテルにより代謝ターンオーバーが低下している14ピークが得られた.そのうち未同定ピークは2つ含まれ,提案された化合物推定法を元に同定された.これらのピークは主に分岐鎖アミノ酸の生合成経路およびTCA回路の代謝物であった.分岐鎖アミノ酸の生合成はロイシンにより阻害されることが知られており,これにより本方法の妥当性が示された.第4章では,以上の研究成果と意義をまとめ,今後の展望について記述した.